ヨルダン国立博物館は、2013年にアンマンのラアス・アルアイン地区にオープンした、先史時代から、ナバタイ文化、ローマ時代、イスラーム時代を経て現代まで150万年にも及ぶヨルダンの歴史をたどることのできる博物館です。

常設展示ゾーンと企画展が行われるゾーンがありますが、常設展示ゾーンでは、遺物が使われていた遺跡の1:1の模型などが合わせて展示されていたりなど、遺物が当時あった状態を想像しやすいような仕掛けがところどころに施されているので、ゆっくり見て回っても面白いかもしれません。

この博物館の目玉は3つあります:

アイン・ガザル遺跡から出土した人型の像

アイライナーが引かれた大きく見開いた目と平らな胴部が特徴的な像ですが、人間の姿を実際に近い大きさで形作った像としては人類史の中でも最初期の例と言われています。紀元前7000年ごろに作られたもので、葦と漆喰からできています。アイン・ガザル遺跡は、アンマンの北西部にある先土器新石器時代の遺跡です。
ルーブル美術館やルーブル・アブダビでもこのアイン・ガザル遺跡から出土した人型の像は展示されているので、そちらで見たことのある方もいらっしゃるかもしれません。

死海文書

1947年に死海沿岸の北西部にあるクムランの洞窟で最初のものが発見されて以降、世界から注目を浴び続けている死海文書。紀元前3世紀半ばから紀元後1世紀までの間に書かれた写本群で、最古のヘブライ語聖書(旧約聖書)とともに、聖書の外典・偽典、その地域にあったユダヤ教の一派の教団の文書類からなっています。主要なものはイスラエルはエルサレムにあるイスラエル博物館内の聖書館(Shrine of the Book)に収蔵展示されていますが、実はヨルダン国立博物館にも収蔵されています。
ヨルダン国立博物館所蔵の死海文書の中で特に興味深いものは、1952年にクムラン周辺の洞窟(第3洞窟)から発見された銅板の巻物です。これは、羊や牛の皮から作られた皮紙やパピルスに宗教的な内容を書き記した通常の死海文書とは形状や内容が大きく異なった珍しいもので、銅板に文字を彫り込んで巻物状にしたものに財宝の隠し場所を書いたものです。
この巻物が開かれ、書かれた内容が解読されて以降、多くの人たちがこの文書の記述をもとに財宝のありかを探しましたが、現在もまだ財宝は見つかっていません。

メシャ碑文(レプリカ)

アンマンから南に70km、死海から東に20㎞ほどいったところにあるディバンで発見された石碑です。紀元前9世紀にモアブの王メシャがイスラエルの王から独立を勝ち取ったことが、フェニキア文字で記されています。この碑文は、旧約聖書の列王記で述べられているイスラエルとモアブの争いについて、モアブ側から見た記録という点で非常に重要なものです。
実は、この碑文は、碑文発見後に地元住民によって一度破壊されてしまいました。ですが、その後、碑文の破片の多くが回収され、破壊前に取られた拓本で欠損部の情報を補って復元されています。復元されたオリジナルの碑文は、現在までルーブル美術館に収蔵されています。ヨルダン国立博物館にある碑文はレプリカです。

アンマンは比較的短時間の観光で駆け抜けがちですが、少し時間を取って、シタデル(アンマン城塞)やローマ劇場などと合わせて、こちらの博物館で死海文書をはじめとしたユダヤ・キリスト教関連の遺物や、先史時代の遺物を通してヨルダンの長い歴史に触れてみるのはいかがでしょうか?

なお、現在ヨルダン政府観光局が立ち上げたサイトVisit Jordan From Homeで、ヨルダン国立博物館のヴァーチャルツアーが公開されています。見学はこちらから(英語・アラビア語)。

死海文書も見られる!ヨルダン国立博物館
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